佐野洋子のこと

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長文注意、の喚起アリ。
週刊新潮は2010年11月18日号の「墓碑銘」。
以下は病院待合の間読んだ当の記事。(全文引用)
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絵本作家、佐野洋子さんの生涯を貫いた「愛と和解」

生死を繰り返しそのたびに飼い主に愛された猫が、
初めて愛することを知る。
最愛の相手が亡くなった時、初めて涙を流し、
もう生き返ることはなかった―。

佐野洋子さんの『100万回生きたねこ』は、
昭和52年の刊行以来、178万部を数え、
子供ばかりか広い世代に
読み継がれている絵本の名作だ。
文章も秀逸で、平成16年には
『神も仏もありませぬ』で小林秀雄賞を受賞している。
「人を愛することで人間はまっとうになる」と
再三書いているが、そこに至る道程は、
自身の長年の葛藤の日々だったかもしれない。

佐野さんは
母を愛せなかった自責と、長い歳月を経て訪れた和解を
『シズコさん』(新潮文庫)に克明に著した。
佐野さんは4歳の頃、
つなごうとした手を母に邪険に振り払われた。
父の他界後、
女手一つで子供達を育て上げたことを理解しながらも、
母の言動や性格を頑なに嫌った。
やがて老いた母は呆け、穏やかになる。
ある日、母を前に涙が湧き、
「ごめんね、母さん、ごめんね」という言葉が出た。
「私の方こそごめんなさい」
という母の返事に動かされる。
「母さん、呆けてくれて、ありがとう。
神様、母さんを呆けさせてくれてありがとう」
という佐野さんの言葉には
長年の万感の思いが込められていた。

親交が深かった詩人の佐々木幹郎さんは振り返る。
「心の中をよく引き出したと思いました。
佐野さんの北軽井沢の家で焚き火を前に
何気ない話をしました。
母との関係で苦しんできた自分の奇妙さを、
ふと話してくれることがありました」

『シズコさん』を小社の『波』に連載中の
平成18年に母は93歳で他界。
佐野さんは乳癌が転移、
余命宣告の期間を超えた時期だった。

昭和13年、北京生まれ。
父の利一さんは満鉄に勤め大連で敗戦を迎えた。
武蔵野美術大学に進み、
白木屋(現・束急百貨店)の宣伝部に。
イラストレーターとして評価されるが、2年で退社。
ベルリン造形大学に学んだ後の46年
『やぎさんのひっこし』で絵本作家として世に出た。
自分の中にいる子供時代の私に語りかけて創作している
と言っていた。

「佐野さんの絵本には教訓や押付けがましいところがない。
子供が持つ本能的で獰猛なエネルギーを大切にしていた。
頭で考えた論理や正義、
上品ぶることが大嫌いでした」(佐々木さん)

エッセイも注目されるが、
「本音が魅力でした。真実を見抜く力がある。
悪ロにも優しさがあり人生に前向きでユーモアがありました」
と、35年来、編集者として縁が深かった
刈谷政則さんは述懐する。

「月面の宇宙飛行士をテレビで見て、
あんた、何しに行ってるの、用もないのに、と言う。
科学の進歩にいかがわしさを感じても
声高に批判するわけではないのです。
人の意見を援用せず、
自分の言葉に責任を持っていた」

結婚から流行、自身の家族まで幅広く俎上に載せた。
「ミーハーで、俗っぽいふつうの中にある凄さ、
けったいさが好きでした。
人ほど変で面白いものはないと感じていた」
(佐々木さん)

2度の離婚を経験。
長男の広瀬弦さんは画家として活躍している。
詩人の谷川俊太郎さんと
平成初めに再婚したが10年余で別離した。

平成16年に乳癌が見つかり
左乳房を全摘したが、翌年、骨盤へ転移。
余命を告げられると延命を望まず、
ジヤガーの新車を買い、
仕事も煙草もやめなかった。

古道具店ニコニコ堂の店主、長嶋康郎さんは言う。
「8年ほど前、一度だけ筆でしたためた手紙を
いただいたことがあります。
癌になった愛猫が平然としている様子に感じ入り、
自分もジタバタせずに死にたいと書かれていました。
今思うと、予感めいたものがあったのかもしれません」

11月5日に乳癌のため、72歳で逝去。
死なない人はいない、
死んでも許せない人など誰もいないと語った。

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「墓碑銘」の佐野洋子をいつか話題に、と思っていた。
ま、それだけのことでありんす。

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このページは、が2011年4月29日 10:52に書いたブログ記事です。

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